2005年10月08日
平成17年10月28日、自由民主党は新憲法草案を発表した。新憲法草案は現行の「第2章 戦争の放棄」を「第2章 安全保障」と改め、第9条の2を新設し、「我が国の平和と独立及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。」と定めた(第1項)。これを受けて「自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」(同条第2項)、「前2項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。」とした(同条第4項)。
ところで現行憲法第76条第2項は、「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は終審として裁判を行うことができない。」と規定しているところ、新憲法草案はこの規定を引き継ぎつつも、第76条第3項に次のとおり軍事裁判所を設けることを規定した。同項の規定は次のとおりである。
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。
もしこのような規定が憲法の改正によって設けられれば、実体法として自衛軍人に適用される軍刑法その他の法令(自衛軍機密保護法の如き)が定められ、軍事裁判所に適用される訴訟法が法律によって定められることになろう。
軍事に関する裁判所は、大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という)下においては「軍法会議」と称した。新憲法草案が予定している軍事裁判所を理解するためには軍法会議に関する理解が不可欠であると考えられるので、まず、旧憲法下における軍法会議の制度を概説する。
(1) 軍法会議とは一般司法機関の外に設けられた特別の裁判所であり、大正10年法律第90号陸軍軍法会議法、同第91号海軍軍法会議法(注1)がそこにおける訴訟手続を定めている。軍法会議は平時においては主として現役または召集中の軍人が犯した罪を裁判する(注2)。上記以外の者に対しては軍人に準ずる軍属、その他陸海軍の部隊に属し又は従う者であって、陸海軍刑法が定める罪を犯したものおよび俘虜に対して管轄権を有する。陸海軍軍人及び陸海軍軍人に準ずる者は原則として、陸海軍刑法が定める罪のみならず、一般刑法が定める罪についても軍法会議の裁判権のもとにあり、俘虜もまた同様である。
(2) 戒厳(注3)が宣せられ合囲地境とされた区域においては陸海軍の支配する範囲が広くかつ権力の発動する程度が強いことを要する関係上、軍法会議の裁判権もまた拡大される。この場合、合囲地司令官の部下に属する者および監督を受ける者、並びに陸海軍軍人および陸海軍軍人に準ずる者と共に罪を犯した一般人にも及び、かつ陸軍刑法、海軍刑法、軍機保護法その他軍事上の必要により特に設けた法令の罪につき、一般人に対し裁判権を有する。戒厳が行われる場合には軍法会議は戒厳令の定める特別裁判権を行い、更に戦時事変に際しては軍の安寧を保持する必要があるときは、如何なる人の犯罪についても裁判権を行い得るものとされる。
(1) 軍法会議は刑事の裁判所であって、犯罪者に対し刑罰権の有無を判定するための国家機関である。軍法会議が民事に関する裁判を行う場合、平時においては犯罪によって生じた損害につき、被害者より被告人に対しその回復を請求した場合において、被告事件の取調によりその請求を至当と認めたとき、しかも被告人の異議なきときに限り、その請求に応ずべき旨の言渡をなすことあるのみである(陸軍軍法会議法第413条、海軍軍法会議法第415条)。但し戒厳が布告された場合は、軍法会議は軍事に係る民事の裁判を行い、また合囲地境内に裁判所がなく、また管轄裁判所と通路が断絶したときは、民事刑事の別なくすべての裁判を行うものとされる(戒厳令第11条第12条)。
(1) 陸軍の軍法会議は8種があり(注4)、常設のものは高等軍法会議、軍軍法会議および師団軍法会議である、合囲地軍法会議は戒厳の宣告があったとき合囲地に特設され、また臨時軍法会議は戦時事変に際し編成した陸軍の部隊に必要により特設されるものである。
(2) 海軍の軍法会議は7種があり、常設のものは高等軍法会議、東京軍法会議、鎮守府軍法会議および警備府軍会議であり、特設のものとして艦隊軍法会議は必要に応じ艦隊または外国に派遣された軍艦に特設され、合囲地軍法会議は戒厳の宣告があった時、合囲地境に特設され、臨時軍法会議は戦時事変に際し必要に応じ海軍の部隊に特設されるものである。
(1) 陸軍においては軍法会議に判士、法務官、陸軍録事及び陸軍警査を置き、判士は陸軍の将校を以てこれに充てるものとする。また海軍においては軍法会議に判士、法務官、海軍録事及び海軍警査を置き、判士は海軍将校を以てこれに充てるものとされる(注5)。判士は将校の中から特に命ぜられるものであるが、将官を以て判士とするときは陸軍大臣の奏請により勅任されることを原則とする。また、佐官以下の将校を以て判士となすときは軍法会議の種別に応じ、陸軍にあっては陸軍大臣、師団長、もしくは軍法会議が設置された部隊又は地域の司令官において、また海軍にあっては海軍大臣、鎮守府司令官、要港部司令官、もしくは軍法会議が設置された部隊又は地域の指揮官において各その部下よりこれを命ずるものとする。
(2) 法務官は司法官試補(注6)の資格を有し、勅令の定めるところに依って実務を修習した陸軍の法務部将校または海軍の法務科士官を以て充てるものとする。法務官のその資格は判事に同じである。その実務修習に関しては昭和17年勅令第335号、第336号に定められている。
(3) 軍法会議の審判機関は判士および法務官を以て裁判官とし、通常の審判は判士4人、法務官1人を以て構成した裁判官の会議により上席判士を裁判長としてこれを行う。軍法会議には予審の制度があり(注7)、予審機関として予審官を置く。また犯罪の捜査をなし公訴を行うのは検察機関の任務であって検察官がこれに当たるものとする。検察官は法務官の中から陸軍大臣もしくは軍法会議の長官によって命ぜられ、長官に隷属し捜査を行い、公訴を行う。裁判は所謂訴訟形式主義の手続により、公訴をなしたる検察官は原告として被告人に対立し、被告人は弁護人を付することを許される(注8)。判決は口頭弁論に基づきこれをなすべきものとし、弁論は安寧秩序もしくは風俗を害しまたは軍事上の利益を害する虞がある場合を除くほかこれを公開する(注9)。軍法会議の判決に対しては控訴は許されず、高等軍法会議に対し上告の途のみが開かれ、一般司法機関である大審院に上告することは許されない。上告は判決が法令に違反することを理由とする場合に限るものとする。
新しい軍事裁判所を設置することの可否そのものについても激しい議論があろうが、ここにおいてはこれを設置する場合の問題点について述べておこう。けだし、設置の是非論をたたかわせる場合にあっても、以下の論点に対する検討は欠かせないと考えるがゆえである。
(1) いわゆる5.15事件(昭和7年)の裁判は陸軍、海軍の各軍法会議に分離して審理が進められ、各地の在郷軍人会は刑の軽減を請願し、昭和8年9月、海軍軍法会議は古賀清志ならびに他の共犯者に死刑を言渡したが、のちに刑は禁錮15年に減刑された。クーデターに加わった11人の陸軍将校に対する陸軍軍法会議の判決は禁錮4年であった。これに対し、通常裁判所において審理を受けた民間共犯者は無期懲役となり、軍人被告人との間に刑の均衡を欠いた。5.15事件の軍人被告人らの行為が憂国の情に出でたるものであるとして、軍法会議に寄せられた軍の内外からの減刑嘆願は実に75,000人にも及び、判士たちの量刑に影響を与えた。こうしたことは既述したように審判機関が法律家のみによって構成されていないこととあいまって、軍法会議が案外外部からの圧力に弱く、いわゆる「身内に甘い」とする批判を受ける可能性が含まれている(注10)。
旧軍法会議はその裁判について通常の裁判所の関与を一切認めず、上告審である高等軍法会議を以て終審としたが、新しい軍事裁判所は自民党案によれば最高裁判所の関与は認めるようであるが、その他の審級の裁判所もしくは何らかの形でシビリアン・コントロールの途を開くべきであろう。
(1) 旧軍法会議は裁判所の体裁を調えるために法曹資格を有する法務官制度を導入した。新しい軍事裁判所を設ける場合にも、そうした法曹資格を有する者の関与をどのようにしたら確保できるかどうかについて予じめ考えておかなければならない。旧軍制下におけるように徴兵制度のもとにおいては、法曹資格を有する者を召集し、一定の軍事教育を施し、将校に任用して法務官となし、これを裁判官もしくは検察官に任用することができるのであるが、現在我国の如く志願制を採用している(先進各国の多くも志願制である)場合には、その確保は難しい。 アメリカの如く弁護士人口が多い場合(約80万人といわれる。我国では2万人)には採用もさほど困難ではなかろうが(アメリカでは Armed Forces Lawyer といわれる弁護士は数万人を算えるという)、我国ではどうしたらよいか。
現在自衛隊において特設法務官の名の下に法曹資格(司法試験合格後、司法修習の過程を終えた者)を有しない者に法実務を行わせる制度も構想されているやに仄聞するが、これを新しい軍事裁判所の判事や検察官に任用することについて首肯し難い。けだし、旧軍刑法は、叛乱の罪、辱職の罪など、死刑を言い渡すべき罪を夥しく規定していた。おそらく、改憲後に制定される軍刑法も同じように極刑をもって臨む多くの犯罪が規定されるであろうが、そのような罪を裁くのに法曹資格を持たない者が関与することは私刑の謗りを免れないであろう。かくては外国の軍隊(主として米軍)と共同した作戦間もしくは作戦外において外国軍人と我国の軍人とが共犯関係に立つような場合には、当該外国軍人は私刑にひとしい裁判を理由に、我国の軍事裁判所が当該事件について管轄を有するものとされることを決して肯じないであろう。
(1) 打開の途はおおまかに言って4つある。その1は、既に法曹資格を有する者を軍事裁判所に登用することである。まず、通常裁判所の判事検事をして軍事裁判所に転籍させる方法が考えられるが、現在でも人員不足が言われている状況に照らすと、余程判事検事の増員をしない限り無理である。現在裁判所書記官から簡易裁判所判事に、検察事務官から副検事に夫々登用する制度があるが、その制度を類推してこれらの者を軍事裁判所の審理に関与させることは既述の理由と同じ理由から許されない(現在でも検察事務官を捜査に関与させることについて外国の法律家の中には異論があることを銘記すべきである)。
次に、弁護士の中から軍事裁判所の判事検事に登用する方法である。必ずしも軍事裁判所についてではないが、民間にある弁護士を自衛隊に登用することについては現在の防衛庁にもやかましい議論があるようである。曰く機密の漏洩に対する懸念であり、弁護士が腰掛的に就職するのではないかとの不信である。前者は弁護士を馬鹿にした議論であってとうてい容認できないであろうが、後者は肯綮に当たるものを含む。その弊を避けるためには弁護士から登用された者について階級その他の名誉、給与等について一定の配慮が必要とされるであろう。そうしないと長期間の勤務を期待できないというのも事実であろう。
しかし、逆にそうした処遇をすれば、弁護士の人口が増加の趨勢にある昨今、任官者は出てくるだろうと思われる。要は将来の軍当局の考え方次第である。
(2) 打開策の2は自衛官(将来は制服軍人)の中から選抜した将校をして司法試験を受験させ、法曹資格を得させる方法である。法科大学院(ロースクール)の過程を終了することが必要とされるが(ロースクールの過程を経ないでいきなり司法試験にチャレンジできる現在の司法試験制度は平成22年をもって終わる)、入学試験に合格した者に対し授業料等の費用を学生に貸与し(卒業後に返済させる)、ロースクールに在学させ司法試験を受験させるなどの方法はさほど困難ではないと思われる。
(3) その3は自衛隊(将来は自衛軍)の中に法科大学院を設けるかもしくは既存の学校の中に法科大学院のコースを併設する方法である。 現在防衛医科大学校が設置され、多くの医官が生まれているが、将来、「防衛法科大学」(もしくはそのコース)を設け、その過程を了した者をして司法試験を受験させ、合格者に実務修習を受けさせる方途は巨額の予算を必要とする点に鑑みると、上記(2)に述べるよりも困難ではあろう。しかし、医が、自衛軍人の生命を預かる重要な問題であるのと同様、法も自衛軍の組織インフラを保持するために重要な問題である。二考も三考もして欲しいと思う。
(4) その4は予備自衛官制度の活用である。一般人が予備自衛官になれる現行の制度(医師、看護士や通訳要員等が予備自衛官になっている)を活用し、志のある法曹資格者に予備自衛官に志願してもらう方法や、将来は登録だけの登録予備自衛官制度を確立し法曹資格者に登録を求める方法である。
自衛隊の設置と発展については不幸にして「建軍の思想」を欠いた。自民党の改憲案は戦後60年を経てはじめてもたらされた「建軍」の機会である。その一環として構想された「軍事裁判所」は自衛軍のソフトな面でのインフラの一部を成す。「軍事裁判所」を組織図に描き、これに予算を配賦することは誰にでもできる。しかし問題とされなければならないのは、そこにどのような思想を盛り込み、どのような人を以て運用するかの、「質」に関する周到な配慮である。本稿において提案したのは軍事裁判所の法による支配であり、その担い手である「法曹」をどのようにして組織に組み入れるかの構想である。一人前の「法曹」の養成には凡そ10年を要する。
改憲を待つまでもない。自衛隊においても法曹の任用ないし養成について今から考えても早きに失することはない。仮に軍事裁判所が設置されずとも自衛隊の中に法曹を組み込むことは有益である。上に、司法試験のことについて触れた。試験に合格した後に行われる実務修習を通じて、将来、裁判官、検察官、弁護士になろうとする三者が共に研鑽を積むことは、弁護士に登録して自衛隊に帰るにしても(私としてはその途を歩んで欲しいと考えているが)、実務修習の過程を了えたのみで自衛隊に帰るにしても、組織に法の思想を注入することを通じて計り知れない利益をもらたすに違いない。(平成17年10月)
現憲法は特別裁判所の設置を禁止しているが(76条第2項)、旧憲法は「特別裁判所ノ管轄ニ属スベキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム」(60条)と規定し、特別裁判所(司法裁判所でない機関で裁判を行うもの。軍法会議のほか特許局審判官、および領事官があった)の設置を容認していた。ここにいう陸海軍法会議は特別裁判所である。
従って、軍事会議は軍の内部機関でない。
陸軍軍法会議法と海軍軍法会議法とがある。前者は562箇条、後者は561箇条から成る大法典であり、両法ともその構成は、両軍の特性に由来するものを除き、ほぼ同じである。
「天皇ハ戒厳ヲ宣告ス」(旧憲法14条第1項)。戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」(同第2項)。戒厳令はつとに明治15年に定められ(太政官布告36号)、「戒厳令ハ戦時若クハ事変ニ際シ兵備ヲ以テ全国若シクハ一地方ヲ警戒スルノ法トス」(同1条)。戒厳は(1)臨戦地境(戦時もしくは事変に際し警戒すべき地方を区画した区域)と(2)合囲地境(敵の合囲もしくは攻撃その他の事変に際し警戒すべき地方を区画した区域)の二種に分ける(同2条)。
① 陸軍軍法会議の種類は次の通りである。
② 海軍軍法会議の種類は次の通りである。
法務官は勅任又は奏任の文官でその任官を終身とする。法務官の任用については大正11年勅令第98号陸軍法務官及び海軍法務官任用令に依る。即ち、陸海軍法務官試補よりこれを任用し、①過去に陸海軍法務官、理事、主理、判事もしくは検事の職にあった者、②裁判所構成法により判事、検事もしくは司法官試補たる資格を有している者は陸海軍法務官に任用することができる。陸海軍法務官試補は司法官試補たる資格を有する者の中から採用することを原則とし、陸海軍法務官登用試験に合格した者から採用することができる。法務官試補は軍法会議において1年6ヵ月以上実務修習を行ない、実務修習試験に合格した者でなければ本官に任用することはできない。法務官試補は長官の命令により検察官の職務(但し、検事代理の如き地位)を行う。
昭和15年、陸軍は法務官試補委託学生制度を作り、帝国大学で法学を学ぶ者に手当を支給し、毎年軍事教練を行った。太平洋戦争中、野戦軍に特設された軍法会議は、法務部将校不足のため大学法学部卒業の幹部候補生出身の将校を多数代用した、とされる(百瀬孝「事典:昭和戦争期の日本-制度と実態」(吉川弘文館)平2.281頁)。昭和17年3月以降、法務官試補の実務の修習は法務部将校またはその候補者に対し陸軍大臣が定めたところにより陸軍法務訓練所、陸軍軍法会議その他の部隊において軍事司法に関し必要な実務を修習させるものとすることとされた(昭和17年3月勅令335号。海軍については同336号。趣旨はほぼ同じ)。
高等試験司法科試験に合格した者が、判事・検事の実務に就くための研修中の過程にある者。現在の司法試験に合格した者で実務修習中の者は司法修習生と称し、これに似ているが、高等試験司法科試験は判検事任用のための試験であるのに対し、司法試験はこれらの職と弁護士になる者を対象としているなど、種々の相違がある。
軍法会議の予審は、公訴が提起される以前に検察官の請求により予審官がその被疑事件につき公訴を提起することの能否(公訴ヲ提起スベキモノナリヤ否ヤ)を決する程度の審理を行う手続をいう。通常裁判の予審は公訴提起後、公判の準備をするための手続であったのと相違する。予審の制度は大陸法系の制度に起源を有するもので、現在我国の刑事訴訟法には存在しない。
弁護人は、
の中から選任すべきものとされる。上記3については、諸説があるが「予じめ」陸軍大臣が指定した弁護士を指し、もしその指定に漏れた者はたとえ弁護士であるといえども、軍法会議法における弁護人たる被選任資格を有しないという説がある(田崎治久「陸軍軍法会議法注解」、軍事警察雑誌社、大10.130頁~131頁)。
軍法会議の弁論は公開されるが、安寧秩序もしくは風俗を害しまたは軍事上の利益を害する虞があるときは弁論の公開を停める決定をなすことができる。但し、特設軍法会議は非公開とすることができる。裁判書または裁判を記載した調書等は被告人その他訴訟関係人の請求によりこれを交付する。
相沢中佐事件(昭和7年8月、陸軍派閥の一であった皇道派の相沢三郎中佐が統制派と目される永田鉄山少将(陸軍軍務局長)を斬殺した事件)は、常設軍法会議である第1師団軍法会議において審理された。その裁判は公開され、法廷は弁護人によって政治的色彩に彩られた。2.26事件(昭和11年)は東京陸軍軍法会議なる臨時軍法会議において審理された。この軍法会議は「東京陸軍軍法会議ニ関スル件」と題する勅令(昭11勅令21号)によって設けられたものである。ここにおける手続は陸軍軍法会議と同じようなものであるが、弁護人なし非公開で行われた。本件の特殊性に配慮したことによるのではないか(非軍人である西田税、北一輝を通常裁判所の審理に委ねたくないなどの政治的な配慮)と言われている(百瀬:前掲書281頁)。
(平成17年10月8日)