2014年08月01日
(丸の内中央法律事務所報vol.25, 2014.8.1)
司法試験に合格しても直ちに弁護士登録ができるわけではなく、司法修習と呼ばれる研修を経る必要があります(なお、司法修習を経ていなくとも、一定の要件を満たすことで弁護士登録を行うことができる制度もありますが、紙幅の関係で本稿では割愛します)。
司法修習とは、司法試験に合格した者が法曹資格を得るために行う修習のことです。裁判官、検察官、弁護士のいずれを志望する場合であっても修習を経なければなりません。修習の制度はこれまでに何度か改変されていますが、現在の制度では、1年の間に導入修習、分野別実務修習、選択実務型修習、集合修習の4種類の修習を行うことになっています。そして、修習期間の最後に「二回試験」と呼ばれる考試を受験し、これに合格すると法曹資格を得ることができます。
修習生は国家公務員に準じた地位を有し、修習専念義務や守秘義務を負うことになります。ただし、現在この期間は無給とされており、希望者が修習資金の貸与を受けることができるのみです。
平成26年7月現在、第67期の修習生が司法修習を行っています。
第68期から、分野別実務修習開始前(あるいは開始後まもない時期)に、導入修習が行われることになりました。場所は埼玉県和光市にある司法研修所内で、期間は15日間とされています。
本原稿執筆時点では具体的なカリキュラムが公開されていないようですが、修習に関するオリエンテーションの他、各種起案についての導入的講義、実際の起案、起案の講評・解説講義等が行われるものと思われます。
分野別実務修習とは、裁判官、検察官及び弁護士それぞれの立場から実際の事件処理を学ぶカリキュラムのことをいい、修習生は、全国いずれかの裁判所、検察庁及び法律事務所に配属されます。配属地については6カ所まで希望を出すことができますが、希望通りに配属されないこともしばしばあります。各修習地に配属された修習生は4つの班に分けられ、裁判所民事部、裁判所刑事部、検察庁、法律事務所において、それぞれ約2か月間ずつ、班ごとに修習を行います。
なお、各修習地への配属人数は裁判所の規模によって大きく異なります。第66期の東京修習は300名を超えていましたが、私の配属された富山では9名でした。
裁判所の民事部において、民事裁判手続の傍聴、判決書起案などを行い、担当裁判官から指導を受けます。修習地によって若干違いがあるようですが、私の配属された修習地では模擬裁判も行いました。
裁判所刑事部において、刑事裁判手続の傍聴、判決書起案などを行い、担当裁判官から指導を受けます。民事裁判修習と同じく、模擬裁判が行われる場合もあります。
また、裁判員裁判が開始されて以降、修習生は裁判員と裁判官の評議(最終的に有罪か無罪か、有罪の場合にはどの程度の刑にするかを決定する話合い)も見学することができるようになりました。もっとも、裁判員に不当な影響を与えないようにとの配慮から、数時間に亘る評議の最中、修習生は、頷く、笑う、首を捻るなど、表情を変えることを含む一切の動作を禁じられます。なお、検察官から死刑求刑がなされた事件の評議については、裁判員への影響の大きさから、全国的に修習生の見学を許さないのが通例になっているようです。
検察庁では、犯罪を犯したと疑われる者(被疑者)について、起訴・不起訴(刑事裁判にかけるかどうか)の判断に至るまでの一連の手続を担当します。具体的には、被疑者や関係者の事情聴取、供述調書の作成、警察への補充捜査の指示、決済資料の作成、起訴状・不起訴裁定書の起案など、実際に検察官が行っている業務を行います。
法律事務所では、弁護士の業務を見学するとともに、裁判書類の起案等を行い、担当弁護士から指導を受けることになります。
法律事務所ごとに取扱い分野が異なるため、修習内容は配属された事務所によって様々です。私の配属された事務所では、企業法務や交通事故案件の他、行政訴訟等も一部取り扱っていましたが、家事事件、倒産事件など、ある分野に特化して業務を行っている事務所に配属された同期もいたようです。
分野別実務修習の後、修習生が自分の興味・関心に応じて自らカリキュラムを策定して行う実務修習で、期間は約2か月とされています。当該修習地において用意された個別型プログラム、全国各地に出張して修習を行う全国型プログラムのほか、自ら修習先を開拓して修習を行う自己開拓プログラムが存在し、どのような修習を行うのかを自由に選択することになります。各プログラムは基本的に1~2週間程度で、複数のプログラムを組み合わせて自分のカリキュラムを策定します。もっとも、各プログラムには定員があり、希望者が多い場合には抽選が行われます。また、プログラムによっては希望者に課題の提出を義務付け、その結果によって採否を決定するなど、必ずしも希望通りにプログラムを選択できるわけではありません。
特定のプログラムに参加していない期間は、分野別実務修習で配属された法律事務所で弁護修習を行います。これをホームグラウンド修習と呼び、指導担当弁護士から引き続いて指導を受けることになります。
導入修習と同じく、埼玉県和光市にある司法研修所内で約2か月に亘って行われる座学中心の研修です。後述の二回試験に向けた起案、起案の解説・講評講義、模擬裁判、各種講演等が行われます。約70名ごとにクラス分けがなされ、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の各科目ごとに1人ずつ教官が割り当てられます。教官はいずれも現役の裁判官、検察官、弁護士です。ちなみに、裁判官と検察官は教官職に専念することができますが、弁護士の場合は自己の事務所での業務の傍ら教官としての業務も行わなければならず、その負担は軽くないそうです。
正式名を「司法修習生考試」といい、司法修習の締めくくりに行われる研修所の卒業試験です。司法試験に続く2回目の国家試験であることから、通称「二回試験」と呼ばれています。合格率は約98%と極めて高いですが、万が一不合格となると1年を棒に振るばかりか(以前は追試の制度が存在していましたが、現在では廃止されています。)、就職内定を取り消されるなど重大な不利益を伴うため、会場は大変な緊張感に包まれます。
試験科目は民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目で、1日1科目ずつ試験が行われます。試験時間は10時20分から17時50分までの合計7時間30分です。12時から13時までは昼休みとされていますが、食事をしながらの起案も認められているため、パンやおにぎりを片手に起案を続ける受験生が大半です。
試験の運営は極めて厳格で、試験修了後の答案への書き込み等は不正行為とみなされ、直ちに不合格となります。また、提出時に答案と表紙とが紐で綴られていない答案は採点の対象外となります。試験修了後の綴り直しは一切認められておらず、毎年数名が綴ミスで不合格となっているようです。
結果については、合格者ではなく、不合格者の受験番号が掲示されるという取扱いになっています。ちなみに、二回試験に不合格となると罷免という扱いになるそうです。その後、翌年度の二回試験の受験申込を行うと、試験直前に再度採用されて受験という運びになります。また、受験回数は3回までと制限されています。
修習生バッジは、裁判官を表す青、検察官を表す赤、弁護士を表す白を用いて、大文字筆記体のJ(jurist=「法律家」の頭文字)を象ったデザインになっています。このバッジを着用すると裁判所や検察庁等にノーチェックで入場することができますが、取扱いには十分注意するよう念を押されます。万一紛失した場合には、始末書を作成して紛失の経緯などを詳しく報告しなければならず、場合によっては懲戒処分の対象になります。
なお、かつては修習終了時にそのまま頂けたそうですが、現在では返還する取扱いになっています。
和光市の研修所敷地内には2棟の寮が設けられており、集合修習中の2か月間、入寮を許可された修習生はここで生活することができます。もっとも、近年の司法試験合格者増加の影響で部屋数が不足し、毎年入寮希望者の間で抽選が行われています。抽選に漏れた場合には、研修所付近でマンスリーマンション等を賃貸することになりますが、入寮できた場合と比べて経済的負担がかなり大きなものになるため、寮に入れるかどうかは集合修習前の最大の関心事となっています。
弁護士志望の修習生の多くは、修習期間中に法律事務所等への就職活動を行います。また、裁判官や検察官として任用されるには、集合修習時の担当教官の推薦を得て、最高裁判所または法務省から正式に採用される必要があります。そのため、裁判官・検察官志望者も、教官の推薦が得られなかった場合に備えて、法律事務所等に就職活動を行っておくのが一般的なようです。この関係で、修習期間を通じて最大5日間までは就職活動のための特別休暇が認められています。
1年間に亘って一定の研修を受けることを義務付け、現役の法律実務家が指導を担当するという法曹養成制度は、世界的にみても珍しいもののようです。給費制の廃止、修習生の就職難等、司法修習を巡る問題は山積していますが、修習自体は大変意義深いものであるように思います。