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弁護士 友成 亮太

2016年01月01日

安保法制を機に憲法について考える

(丸の内中央法律事務所事務所報No.28, 2016.1.1)

1 安保法制成立の経緯

平成26年7月、安倍内閣は安全保障法制の整備に関する閣議決定を行い、その中で集団的自衛権の行使も憲法上認められ得るとの見解を示し、その後、国際平和支援法案と平和安全法制整備法案を国会に上程し、同法案は平成27年9月19日に成立しました(以下「安保法制」と略します)。

この安保法制についてはマスコミでも連日取り上げられ、国会外でも大々的に抗議活動が行われたことは記憶に新しいところです。特に参考人として国会に招致された憲法学者3名が全員憲法違反との意見を表明したことは、異例のことであって大変注目されました。

私は憲法や安保法制について詳しくありませんが、先日、国会に招致された憲法学者の1人である長谷部恭男教授の講演を聴き、憲法について改めて考える良い機会になりましたので、今回は憲法と法律の関係その他について初心にかえって若干考察してみたいと思います。なお、本稿は特定の政治的立場や主張を支持するものではありません。

2 憲法と法律の関係

上記のとおり、安保法制は違憲であるとの報道や運動が過熱しておりましたが、違憲とは何か、憲法と法律との関係はどのようなものかについて、念のため確認しておくべきだろうと考えます。

いわゆる「六法」というのは、憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法という、代表的な6つの法律を指します。他方、法令(法律と政令規則等を合わせた表現です)が掲載された書籍のことも「六法」といいます。ちなみに、平成27年11月時点の法律の数は約1960、法令全体で約8200もありますから、書籍となる「六法」には代表的な法令だけが掲載されるという形になります。

数ある法律の中でも憲法は国家の統治の基本を定めた法であり、国家の最高法規です(憲法第98条「憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」)。このような強力な効力が憲法に認められている理由は、憲法が国民の基本的な権利・自由を保障したもので、国家権力によっても国民に保障された権利・自由を侵害することが許されない(専断的な国家権力の支配を排斥し法の支配を実現する)との考え方からきています。

そして、仮に内容自体が憲法に反する法令が制定された場合や、法令を憲法違反となるように適用した場合等は、憲法に反するものとしてその効力が否定されます。

3 安保法制に関する議論

(1) 憲法9条と個別的自衛権・自衛隊

安保法制が違憲かどうかを考える前提として、現行の憲法がどのように規定されているのかを確認する必要があると思います。

憲法は、前文で平和主義を謳い、第9条の第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とし、第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と定めています。

憲法9条の読み方は諸説あり、侵略のための武力行使及び戦力を放棄しているとの解釈はさほど異論がないとして、自衛のための武力行使及び戦力までを放棄したものかどうか、考え方が分かれます。

この点に関して、独立する国家であれば、自国民の権利を守るため、他国からの侵略に対して無抵抗の態度をとるのではなく、当然に自国を護るための自衛権(外国からの急迫又は現実の違法な侵害に対して、自国を防衛するために必要な一定の実力を行使する権利)が認められていると考えられます。いわゆる個別的自衛権です。

そして、自衛権の行使のための必要最小限度の実力として自衛隊を保有することは憲法9条にも違反しないというのが長年の政府見解でした。つまり、憲法9条に違反しないのは自国の防衛のための権利行使に限られるのであって、他国に対する武力攻撃に応じて、自国の実体的権利が攻撃されていなくても防衛行動を取ること(集団的自衛権)は許されないということになります。

(2) 安保法制に関する議論

政府は憲法9条について、上記のような解釈をとってきたわけですが、これに対し、平成26年7月に安倍内閣は、集団的自衛権の行使が憲法上認められ得るとの閣議決定を行いました。その理由として、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」としています。

その後、平成27年9月に安保法制が成立し、複数の法律が総合的に改正され、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(いわゆる存立危機事態)には武力行使が許されるという法律が成立しました。

上記規定を見ると、他国に対する武力攻撃に応じて日本が武力行使をできるということになりますから、集団的自衛権を認めたものとして読み取ることができます。このような安保法制の内容については、多くの憲法学者が違憲であるとの意見を表明しており、上記3(1)のような従前の憲法9条の解釈論に照らしても、個別的自衛権を超えて集団的自衛権が憲法上認められ得るのかは大いに問題になるといえます。

そして、上記2のとおり、憲法に違反した法律は無効になってしまいますから、従前の憲法解釈によれば違憲無効となるような法律を、閣議決定による憲法解釈の変更だけで有効に制定できるのか、という問題があります。

(3) 安保法制の内容自体の問題点?

憲法第9条を解釈した場合に安保法制が違憲になるかどうかという点を措くとしても、そもそも他国に対する攻撃によって日本の存立が脅かされるような事態が起こりうるのか、という問題もあります。例えば、竹島や北方領土に関する国家間の主張の対立は措くとしても、それらの土地が日本領土であって、他国に実効支配されていれば、他国によって日本に対する実力行使があるといえますが、それにより日本に存立の危機が生じていると評価できるのか、領土が実効支配されていても日本に存立の危機が生じないのに、他国に対する武力攻撃によって日本に存立の危機が生じるのか、想定すること自体難しいのではないか、というような問題提起もなされています。

また、イギリスのエコノミクス紙が評価した世界平和度指数(Global Peace Index)によれば、日本は世界で8番目に平和な国として評価されており、現行の制度で十分平和であれば、敢えて集団的自衛権を認めるための法改正を行う必要性があるのか、というような意見もあるようです(ちなみに、1位はアイスランド、韓国が42位、アメリカが94位、中国が124位、北朝鮮が153位、最下位の162位がシリアとされています)。

4 憲法改正の手続

現行憲法の解釈を前提として、安保法制が違憲であるとすれば、憲法改正の手続を行うことによって憲法自体を変更してしまえば、集団的自衛権を容認する考え方もあり得るのではないか、という意見があります。安保法制が違憲であるとの議論は、現行の憲法を前提とするものですから、憲法の変更をすれば、違憲の疑いがあるものが合憲になるということはあり得るでしょう。

このとき、手続としては、衆参両議院でそれぞれ3分の2以上の可決を得て国民に憲法改正を提案し、国民投票により過半数の賛成を経なければなりません(憲法第96条)。ここにいう国民投票は、18歳以上の日本国民に投票権があり、実際に投票された賛成及び反対の総数の過半数を得れば良いとされています(日本国憲法の改正手続に関する法律)。

なお、日本国憲法を改正するとしても限界があり、基本原則である国民主権や平和主義を廃することはできないと考えられていますが、憲法第9条2項の改正を許さないとまでいえるかどうかは意見の分かれるところです。

5 違憲立法審査制

違憲状態の法令が存する場合に、それを質す方法として、裁判所による違憲審査が憲法上認められています(憲法第81条)。そのため、法令が違憲であれば、裁判所がその法令について無効であると判断することができます。

ところが、日本の裁判所は、具体的な争訟に付随する形に限って違憲審査を行う制度(付随的違憲審査制)をとっており、法律が憲法に適合しているかどうかだけを抽象的に審査できる制度(抽象的違憲審査制)をとっていないというのが通説的な見解です。

したがって、安保法制について違憲の疑いがあるとしても、単に違憲の疑いがあるからといって裁判所に訴え出ることはできず、具体的な事件があり、その裁判の中で安保法制の適用が問題になり、その上で安保法制の違憲性を争うという形にならざるを得ません。安保法制の性質からして、安保法制が問題になるような具体的事件が起こるとは想定しがたく、裁判所が安保法制の合憲性について公式に見解を述べる機会はないのではないかと思います。

6 まとめ

以上の通り、安保法制でどのような点が問題になっているか、私なりにまとめてみました。本稿を書きつつ、安保法制が違憲かどうかを考えるにあたっては、憲法と法律の関係や、現行憲法の解釈について勉強する必要があると思い直した次第です。平和を謳った現行憲法や、平和維持のための法律の整備は重要だと思いますが、憲法に反する法律を制定することは問題があると思いますので、今後行われる国政選挙では今回の勉強を踏まえて投票を考えたいと思っています。

以上

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